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賢者ナータン 五幕の劇詩

Akira Ichikawa Collection No.3

ゴットホルト・エフライム・レッシング 作 市川 明 訳

新書判/106×173mm/688頁

並製本/本文特色印刷/ドイツ語原文付き/2016年

AD+D+DTP:松本久木


市川明によるドイツ語圏演劇翻訳シリーズ第3巻。

偶数頁にドイツ語原文を底本に即した形式で掲載し、奇数頁に日本語新訳を同様の形で掲載することで韻文劇の醍醐味である韻文のリズムと発話のリズムを再現した。
作品鑑賞のみならず、日独語比較研究を試みる読者・研究者の便をも図る意欲作であり画期的な一書である。


>>Collection No.1『タウリス島のイフィゲーニエ』ゲーテ作
>>Collection No.2『こわれがめ 喜劇』クライスト作

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 啓蒙思想・啓蒙主義(英:Enlightenment, 独:Aufklärung)は、ヨーロッパで十七世紀末に起こり、十八世紀に全盛になった革新的思想である。カントが『啓蒙とは何か?』で書いているように、「人間の理性によって周囲を取り巻く暗黒・迷妄を一掃し、明るくすること」がもとの意味である。„Sapere aude!“「あえて賢くあれ」「自分の頭(理性)を使う勇気を持て」が啓蒙のモットーとなっている。歴史的に見れば、中世以来のキリスト教会によって代表される伝統的権威や旧来の迷信・因習などを理性によって批判し、不合理なものへの従属から脱却して人間の自由と幸福を獲得することを目指す思潮である。ドイツではレッシングなどに代表され、フランス革命の原動力の一つになった。
 (…)『賢者ナータン』だけが主人公の名前に「賢者」という二文字を冠している。『賢者ナータン』の第二幕第二場でシッタはナータンについて、「ユダヤ人の神さまがこの世のありとあらゆる財宝のうちで/いちばん小さな宝である富といちばん大きな宝である賢明さを、たっぷり/分け与えた人」(1037-41行)だと言う。エルサレムの商人ナータンは、金持ちナータンであり、それ以上に賢者ナータンなのだ。したがってこの戯曲では啓蒙思想の体現者であるナータンが、どのようにその賢明さや理性を使って真理を探究するかが描かれていると言ってよい。
 すでに第一幕第二場で啓蒙主義者ナータンの本領が発揮されている。ナータンの養女レヒャは、父親の留守中に家が火事になり救出されたことを、旅から帰った父親に報告する。レヒャは侍女ダーヤの解釈をそのまま受け継ぎ、神さま(創造主)の使いである天使によって「奇跡」が自分にもたらされたと確信している。ナータンは「天使」を探そうともしないダーヤとレヒャに「無慈悲な夢想家どもめ!」(329行)と叱る。理性の人、ナータンによれば、「敬虔な夢想は/善良な行為よりはるかにたやすい」(359/360行)。レヒャを助けたのは天使ではなく人間であり、人間の幸せのためには、人間の善良な行為が必要なのだと説く。「蒙(くら)きを啓(あき)らむ」レッシングにはいかなる偏見もなく、『賢者ナータン』でもさまざまな宗教を持つ人たちがナータン家に住み、出入りしている。
 ナータンのモデルはレッシングと親交が深かったユダヤ人哲学者、啓蒙思想家のモーゼス・メンデルスゾーン(ロマン派の作曲家、フェリックス・メンデルスゾーンの祖父)である。メンデルスゾーンは当時キリスト教徒から蔑視されていたユダヤ教徒に市民権を与えるよう主張し、ユダヤ教徒の身分的解放のために尽力した。レッシングはユダヤ人ではないが、こうした立場に共感を示し、常に暖かな眼差しをユダヤ人ナータンに注いでいる。ナータンの姿はレッシングにも重なるのである。
(市川明「解題」より)
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市川 明(いちかわ・あきら)
大阪大学名誉教授。1948年大阪府豊中市生まれ。大阪外国語大学外国語学研究科修士課程修了。1988年大阪外国語大学外国語学部助教授。1996年同大学教授。2007-2013年大阪大学文学研究科教授。
専門はドイツ文学・演劇。ブレヒト、ハイナー・ミュラーを中心にドイツ現代演劇を研究。「ブレヒトと音楽」全4巻のうち『ブレヒト 詩とソング』『ブレヒト 音楽と舞台』『ブレヒト テクストと音楽──上演台本集』(いずれも花伝社)を既に刊行。近著に“Verfremdungen”(共著Rombach Verlag, 2013年)、『ワーグナーを旅する──革命と陶酔の彼方へ』(編著、松本工房、2013年)など。近訳に『デュレンマット戯曲集 第2巻、第3巻』(鳥影社、2013年、2015年)など。多くのドイツ演劇を翻訳し、関西で上演し続けている。

ゴットホルト・エフライム・レッシング(1729–1781)
ドイツの劇作家、批評家、文芸理論家。ドイツ啓蒙思想を完成させた人物としても知られる。シェイクスピア劇から大きな影響を受け市民的な戯曲を書いて成功を収めた。
1729年1月22日、ザクセンの小都市カーメンツの貧しい牧師の家に生まれる。1746年にライプチヒ大学に神学生として入学、のちに医学を学ぶが、哲学、文学、芸術に熱中した。1748年、初期の喜劇『若い学者』(1747)がノイバー一座によって上演されている。1767年から1770年まで、新規設立のハンブルク国民劇場に座付き作家兼劇評家として参加。この劇場で、『ミンナ・フォン・バルンヘルム』(1767)を初演している。ここでの活動は『ハンブルク演劇論』として結実している。1770年、ヴォルフェンビュッテルの図書館に司書の職を得る。『エミーリア・ガロッティ』(1772)、『ミス・サラ・サンプソン』(1775)を発表。晩年には、ハンブルクの牧師ゲーツェと宗教論争を展開する。この流れを汲んだ『賢者ナータン』(1779)では、実践的な宗教的寛容の精神を明らかにした。
1781年2月15日、ブラウンシュヴァイクで死去。レッシングの革新的な思想と、真理を探求する姿勢は、近代ドイツ文学の礎を築き、後代の作家に多大な影響を与えた。その作品は現在でも多くの劇場で上演されている。











 


ISBN 978-4-944055-79-1
定価

2,160円(本体2,000円、税160円)

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